text by
sacha
page top

drama top
Numero 2  「8歳の未来 〜僕のパパは日本人〜」
 
ジョニーがバンコクに産まれて、8年。
真っ黒に日焼けした肌に似つかわしくなく、肉づきのいいカラダは
タイの子供たちのなかではめずらしいことだ。
たいていのタイの子供はやせ細っている。それもそのはず、あの暑さのなかで
スパイシーなものを食べる生活からすると、太るということ自体が難しいはずだ。
スパイシーな味覚をつかさどる唐辛子には、アントシアニンが含まれていて
ダイエット効果にも優れているし、発汗作用があるからなかなか太りにくい。
冷房のある裕福な家庭で育つ子にかぎれば、太るということもなきにしもあらず、
しかし彼の住む家は、木造の平屋で、9人の家族がひしめきあって暮らしていて、
クーラーなどという贅沢品はない。
家族といっても、血がつながっているのは7人で、あとはメイドの女性と
このジョニーだ。素朴な笑い方をするこの8歳の男の子は、
いま小学校に通っている。水色のシャツに紺の短パン、という制服姿で
自転車を乗り回す姿に、なぜか懐かしさを感じる。
昔の日本を思い出すような路地裏のせいだろうか、
ここがジョニーの放課後遊びのテリトリーだ。
とあるいきさつで日本人である私がこの家にお邪魔することになり、
この家の住民に一人一人挨拶をしてまわった。
合掌して「サワディ・カー」、というのが決まりだったが、
ジョニーの挨拶だけはちがっていた。
「コンニチハ、ヨウコソ」
その発音が素晴らしかったので、思わず彼の目をじっと見つめてしまう。
真っ黒い瞳のなかに、澄んだ心を映すことができた。
あとで聞いた話だが、ここに住む子供5人兄弟のうち、
彼だけが“もらわれっ子”なのだとか。
ご両親の子供に対する接し方を見るかぎりでは、全くその違いがわからなかった。

「この子の父親は、日本人なんだよ」
と、その家の主であるパパが私に教えてくれた。
あきらかに冗談と分かる口調で
「どうだい、君が日本に連れて帰って、この子の父親を探してくれないかい?」と。

このやりとりで、私はすべてを察して、自分が日本人であることに
一瞬恥ずかしさを覚えた。
テレビのドキュメンタリーで見たことがある。
タイに一時的に住む日本人男性が、タイの女性との間に子供をつくり、
滞在の用事が終わるとほどなく、二人との関係を断ってしまう、という話だ。
情があるうちは、資金援助などをしてくれるケースもあるらしいが、
それも数年のうちだけで、あとは行方さえ分からなくなってしまう。
その男性の多くは既婚者だ、という話も聞いたことがある。
私はこう想像する。日本に家族をもっている男性でないかぎり、
自分の血を引いた子供をタイに残して消えてしまうなんて、
そんな非情なことができるわけない、と。
きっとこのジョニーのお父さんたる男も、その類の人間なのかもしれない。
そしてまた可哀そうなのが、母親さえも出稼ぎに出てしまい、
行方が分からなくなっていることだ。
こちらのほうはもしかすると、ジョニーのためにお金を作るために
消えてしまった、という解釈もできるのだが、この子が本格的に日本に探しに
いかない限り、父親のほうはまず見つかることはないだろう。

このような日本人男性が数多くいる、ということにも恥を感じる私だが、
もっとけなげなのは、ジョニーのような子供たちが
「日本人の血を引いていることを誇りにしている」という事実だ。
まじめに学校の勉強をして、日本語も勉強すれば、
いつか自分の父親に会いにいけるチャンスがある、と
希望を捨てていないのだ。
今日も「あいうえお」をキレイに発音するため、日本語学校の黒板に向かう。



Note
このように「日本人の父親をもつ子供」がタイには少なくありません。
「行方知れずのパパを探しに、日本に渡ればいいのに」
と私たちは安易に思ってしまいますが、
タイの人が日本に上陸するビザを取得するには、よほどのお金持ちとか
留学とか、または日本人の援助がないかぎり非常に困難なのです。
ジョニーのお父さん、この話を聞いて「ピン」ときませんか?
あなたの息子は、優しい大家族に育てられて、こんなに大きくなっています。
人にも優しく、正直もので、こころもきれいですよ。
Copyright (C) 2004 Office Cahier. All rights reserved.