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7月31日 日曜日 ハレ
●眉間の皺の深い谷

日曜日のドイツは、殆どのお店が閉まってしまう。
開いているのは駅構内の店舗か、街中では一部のカフェやファーストフード店のみ
(あと、ガソリンスタンドも開いているらしい)。
街中の静まり返った雰囲気は、日本のお正月を思わせる。
とくにすることもないので、息子とふらふら散歩に出かけることにする。
私は「とくにすることがない時間」が大好きである。
ネッカー川までゆっくり歩いて15分。
川を眺めながら休憩できるベンチを見つけたので、一息つくことにする。
息子にはレーズン、自分にはペットボトルのアイスティがお供である。
ランニングをする人の姿が目立つなか、犬の散歩や、
ベビーカーを押す老夫婦の姿もちらほら見える。
日曜日はおじいちゃん、おばあちゃんに子供をあずけて、
夫婦だけの時間を過ごす人が多いのかもしれない。
水と梢の音のまにまに、教会の鐘の音が染み入ってくる。

(こんな時間が週に一度あれば、日本ですっかり定着した
“癒しグッズ”なんて必要なくなるだろうな)
私の頭に、一瞬、こんなことが浮かんだが、すぐに違う考えが頭を擡げた。
ドイツ人の多くに見られる(←私が見た範囲で)、
ゴルゴ13のような眉間の皺が脳裏に浮かんだのである。
スーパーのレジのおばちゃんは、ブレッツェル売りのおじちゃんは、
何故あんなにコワイのか(←私だけ?)。
ちょっと、本当にほんの数秒、自分の前の車が道を訊くために停車してしまっていることに、
どうしてそんなに発狂したようにクラクションを鳴らし、怒鳴り散らして怒るのか。
(うん。ドイツ人はこの日曜日に癒されてない)
以上、私の端的な結論である。

※当たり前だけど、ドイツ人全員が↑こんな感じではない。言うまでもないけれど、
親切で優しい人は沢山いるに違いないし、
優しくても、クラクションを鳴らす人も、きっと居る。
多分。

8月2日 火曜日 アメ
●とーちゃん帰る

とーちゃんが無事、日本からドイツへ帰って(?)きた。

8月3日 水曜日 クモリ
●海の底とベッドの下

お昼頃まで、とくに変わった感じはしなかった。
1時頃、とーちゃんがお昼ごはんを食べに帰ってきたので、
3人一緒にチャイニーズのインビス(ファーストフード店)へ。
その時、息子がおとなしいと感じたのだけれども、
出てきた焼きそばはもぐもぐ食べているし、
いつもはお昼寝の時間であるところをつき合わせているのだから、
単に眠たいのだろうと解釈していた。

それから帰って、遅いお昼寝から目覚めたとき、
息子の身体には確実に異変が起こっていた。
すごく機嫌が悪い。変だと思い、額を触ると、熱い。
(熱がでてるー!)
息子は1歳6ヶ月のいままで、ろくに熱なんて出したことがない。
0歳のときに一度、軽く風邪をひいて以来である。
そしてこともあろうに、体温計を持ってくるのをすっかり忘れていたから、
実際、どれほど熱があるのかさえ解らない。
とにかく、とにかく、今までにないくらいに特大の機嫌の悪さである。
それでも、時は夕刻。野菜スープもまずまず食べたし、息子も眠たそうなので、
今日は眠らせることにする。

息子が身をよじって泣き始めたのは夜中の12時頃。かなり具合が悪いらしい。
泣く息子を抱っこしたまま困っているところに、とーちゃん遅めの帰宅。
ことのあらすじをざっくりと説明すると、抱っこゆらゆらや、背中すりすりを共に試してくれるが、
息子は一向に泣き止まない。初めて体験する身体の不調に怒り収まらぬといった感じである。
困ったなー、とキッチンへ向かった私の背中に
「あー、吐いたー!」と、とうちゃんの声(汚くてごめんなさい)。
あわててベッドへ戻ると、息子は夕飯の野菜スープをほぼ全てリバースした後だった。

しかしこれがすっきりしたらしく、息子はほどなく眠ってしまった。
汚れたシーツを換え、ひと段落したことろで、私達も眠ることにした。

すると、とーちゃんが私に小型の録音機を手渡す。自分のいびきを録音しろ、というのである。
とーちゃんはいびきが酷いわりに自覚がないので(周りは迷惑)、以前から自分のいびきを
聞きたがっていたのだ。(でも、なぜ、今なのだ?)と思ったが、まあいいか、
と私が考えているうちに、隣からいびきが。もう寝たのか。
早速、録音し、本人をその場でつつき起こし、聞かせる。
「わーー、ほんとだー(←いびきをかいていることに感動している様子)」と、しばし聞き入り、
「気持ち良さそうー」と、はしゃいでいる。
あれ、満足させるために録音したわけじゃないんだけど。
「引き続きよろしくー」と再び録音機を渡され、さて、私も寝るかと思ったところで、
今度は息子が愚図りだした。
水を飲んでみたり、ベッドから降りて周囲を歩いてみたり、眠り難民と化していたが、

しばらくすると、ベッドとクローゼットの間に横たわったまま、落ち着いてしまった。

(おーい。そこ、地べただよ。ここ、絨毯だけど、土足の国だよ)
抵抗はあるものの、病床の人がせっかく見つけた心地の良い場所を奪うのはしのびない。

仕方がないので、私も付き合って、ベッドとクローゼットの間で眠ることにした。
それにしても狭い。 息子サイズだとジャストフィットなのだが、大人だとさすがに、
ベッドの下に足を入れるか、身体をくの字にしなければ、なかなか収まらない空間である。
ベッドの下に、足は入れたくない。深海の真っ暗な闇を連想させるベッドの下に足を入れると、
とんでもなく怖い体験をしてしまいそうな予感がする。
私は身体をくの字にして、息子の寝息を確認しながら眠ることにした。
地べたに寝るだけで、ベッドの上の人の高いびきがずいぶん遠くに聞こえるもんだな、
と妙に感心しながら。

8月4日 木曜日 ハレ
●床に落としたピーナッツ

息子は今日も具合が悪かった。
これはただの風邪じゃないかもしれない、と私達は思い始めていた。
服を脱がせると、一年前に受けたBCGの痕の付近が赤くかぶれている。
この赤いかぶれと発熱との因果関係は解らないけれど、すごく気になる。
病院へ行くしかない。
かわいそうに、具合の悪い息子が落ち着ける場所は、今日も矢張り地べたらしく、
幾度となくベッドの脇あたりにうずくまっている。
「床に落としたピーナッツみたいで、ちょっとかわいいー」と、
病気の息子を評価するとーちゃんは、 朝から自分のいびき録音を再生しては、
「気持ち良さそうー」と、ひとり癒されている。

午後、病院へ行くために、仕事から戻ってきてくれたとーちゃんと、三人で近くの小児科へ。
偶然、近くに小児科があって、この病院の存在を知っていて、本当に良かった。
異国の地で小児科初体験。恐る恐るドアを開けると、ジーンズ姿でベリーショートの
可愛いおねえさんが親切に対応してくれた。
しばらく待った後、問診・検温・血液検査・検尿(これは採れなかった)を受け、
熱が39.1度もあったため、座薬を入れてもらう。
検査の間中、息子は大泣きし、おねえさんに「彼は激しく泣くねー」と驚かれていた。

日本でもドイツでも「凄い泣きだね」評価は同じであった。
検診の結果、バクテリアに感染しているということで、処方箋をもらい、
近くの薬局で薬と体温計を買う。
週末が近い街の午後はどことなくにぎやかだが、フィルムを一枚隔てているような感覚。
私達はちょっと疲れていた。
バーガーキングでドリンクを買って帰る途中で、座薬が効いたのか、
息子は眠りについていた。
仕事へ戻るとーちゃんと分かれて息子と帰宅。
夜、起きた息子の体温を計ると35.7度まで下がっていた(下がりすぎ)。
熱は下がっても、機嫌は全く良くならない。しばらくして、また嘔吐。
それでも、熱が下がってせいか、お水も良く飲むようになった。


8月5日 金曜日 ハレ→クモリ→少しアメ
●少し揺れてみる

解熱剤で熱が下がったおかげで、熱は37度。昨日よりは幾分マシな状態に見える。
お粥も少したべたし、ジュースも飲んだ。
テレビの子供番組を点けてあげると、音楽に合わせて、わずかに身体を揺らしていた。

それでも無表情。まだまだ、笑う余裕はないようだ。


8月6日 土曜日 クモリ
●いろいろ、またでたー

朝、息子が下痢気味のブツを大量に放出(汚くてごめんなさい)。
シャワーで流してあげようと思い、服を脱がせたところ、お腹から胸あたりが
地図状に赤く発疹している。熱も38度まで上がっているし、突発性発疹ではなさそう。
薬のアレルギーか、麻疹か、と、考えればきりがない。
下痢は朝の一回だけだったので、服用した抗生物質のせいに思われるが、
様子も、昨日よりもぐったりしていて、全く元気がなく、息も速い。
お昼過ぎに、やっぱり心配なので、お医者さんへ行こうと用意をしていると、
丁度、とーちゃんが様子を見に帰ってきたので、一緒に病院へ向かったところ、
なんと休診日だった。

仕方がないので、とーちゃんは仕事へ戻り、私は息子と一緒に帰宅しようとしたが、
外が大好きな息子が、家へ帰ることを察知して愚図りだしたので、
少しだけ散歩することにした。
近所をぶらぶら歩いているうちに、息子がすぐに疲れてきたようなので、
アパートへ戻ると、エレベーターホールで偶然、4階のKさんに会う。
実は、週に一度、近くの教会で親子で遊べる時間が設けられているとのことで、
是非一緒に、と誘ってもらっていたのだが、
こんな事態になっていたので行けなかったことを説明して謝る。
部屋に帰ってしばらくすると、心配したKさんが、近くの救急病院の住所と、
場所にペンで○を付けた地図を持ってきてくれた。
これだけでも、ものすごくありがたいのに、
小児科のドクターが子供の病気について書いた本と、
海外で子育てをする人のために書かれた本、二冊を貸してくれた。
たった二ヶ月の滞在だし、ネットがあるから、と甘くみて、この類の本を用意することなんて、
まるで頭になかったことに反省しつつ、 息子が眠っている横で借りた本に目を通す。

どちらの本も、読み物としても面白い内容で、全く関係のない項目も目を通してしまった。
(前者は、翻訳本なのだが、翻訳本好きの私にとっては、特有の言い回しが読み良かったし、装丁も綺麗で内容もわかり易かった。後者の本は少し内容が古いかな、と思われる部分もあったけれど、突っ込みながら読むのがまた楽しかった)
思えば、うちの息子が元気なときは、読書をすることすらできない状態なので、
こんなにゆっくり本を読むのは本当に久しぶりなのだ。
本から客観的な情報が入ってきたこともあってか、単純な私は数時間後、
すっかり冷静になっていた。
息子の息は辛そうだけど、(うん、大丈夫)という気持ちになっていたのだ 。
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