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7月25日 月曜日クモリ
●小さい脳みそガンバル

息子、1歳6ヶ月。
ごはんをガツガツ食べた結果、1歳5ヶ月で勝手に卒乳してしまった。

無理に断乳する気がなかったので、何歳まで飲むのか解らないけれどとことん付き合うか、
と覚悟を決めていた私だが、ちょうど二人目を妊娠した矢先、正直、大変助かった。
そんな彼はもう、おっぱい欲しさで起きることはなく、夜はたいていグッスリと寝てくれる。
ただ、ごくたまに、すさまじい夜鳴きをする日以外は。
理由は解らないけれど、新しいことをした日や、沢山叱られた日に多い気がする。

そして昨晩、いつも叱らないとーちゃんに沢山指導された息子は、真夜中に一度大泣きし、
今日の明け方に更に二度目のすさまじい奇声をあげてくれた。
まさに「夜鳴き」である。これって、今まで経験してきた、「夜中のおっぱいほしい泣き」とも、
「なんだか歯が生えかけてて気持ち悪いよう泣き」とも全く違うものだ。
背中すりすりも、抱っこゆらゆらも駄目なので、一度覚醒させるしかない。
眠たい身体に鞭打ち、暴れる息子を抱きかかえ、窓際へ連れて行く。
ひんやりとした空気が気持ち良い。
外はまだぼんやりと暗く、夜と朝の間で悩んでいるような感じだ。
中央駅へ向かう路面電車にはすでに人がまばらながら乗車しているけれど、
逆方向へ向かっていく電車には、誰も乗っていない。
「誰も乗ってないよ。あの電車に乗りたいねぇ」と話しかけると、
いつの間にやら、憑き物がおちるたように泣き止んだ息子も「あ、う、あ」とお喋りを始める。
しばらく二人で窓の外を見ていると、なんとなく懐かしい空気を思い出す。
小学生の夏休みの早朝に、ふと目を覚ますと、こんな空気がながれていたような。

「ぶぶー」息子が窓すぐ下を指差す。
自動車が一台、アパートの前のキヨスクのすぐ隣に止まった。
当然、こんな時間にキヨスクなんて開いていない。
(なんだろう?)と思っていると、おお、すごい。
キヨスクに明かりが点いて、開店したのだ。キヨスク開店の瞬間である。
こんな時間から働いているのか、ドイツ人って意外と働き者だな。
普段は見られない秘密の箱を覗くような感覚。
息子がぼわーっとあくびをしたので、ちょっと得した気分になって、もう一度眠ることにしよう。



7月26日 火曜日 クモリ→アメ→ハレ
●ドイツで母子家庭、路頭に迷いかける

急な用事ができて、とーちゃんが日本へ一時帰国することになった。
8時7分のフランクフルト行きの電車に乗ったとーちゃんを見送り、プラットホームに息子と二人。
実は、これからアパートの家賃を払いに行く、という大仕事をやらなければならないのだ。
本当は昨日、とーちゃんが払うはずだったものなのだが、事務所が開いている時間に
間に合わなかったらしく、急遽、お鉢が回ってきてしまった。
うちのとーちゃんは自分を「隊長」だと言っているが、そのわりにちょっと抜けている。
しかも隊員は私と息子である。

家庭の事情はともかく、家賃は払わなければならないので、教えられた通りに、
アパートから数ブロック離れたところにある事務所の窓口へ行く。
話はすでに通っているとのこと。担当のドイツ人女性は、私の顔を見た瞬間に
(日本人であることもあり)理解してくれたようで、
キャッシャーの窓口の女性に、色々と説明してくれた。
これはすんなりと事済みそうだ、とキャッシャー担当の女性にお金を渡す。
キャッシャーの中年女性は、見るからに私のイメージの中のドイツ人(あくまで主観)で、
ニコリともせずに内訳を説明してくれる。
よく解らないながらも、ふんふんと聞いていたが、何やら雲行きが変だ。
「なぬーーー!? デポジットーー!?」
とーちゃんが家賃として用意してくれたお金には、デポジットが含まれていなかったのだ。
つまり、金が足りない。「出直す」旨を告げると、
女性はちょっとムッとした感じで(←私の気持ちのせいでそう見えたという説もある)、
カレンダーの28日をペンでトントンと叩きながら「次はこの日になるわよ!」というようなことを
私に言う。
当然、こちらが悪いわけだし、私としても先延ばしにして、
中一日を嫌な気分で過ごしたくはない。
「今日来るよ!」と即座に返すと、女性は少し機嫌が良くなったようで、
とりあえず家賃分の領収証を発行してくれ、
私の脇のバギーでミニカーを握り締めている息子を見るやいなや、あら、びっくり、の破顔。
「あららー、パトカーと消防車ねー(←息子が持っていたミニカー)、すごいわねー」と話しかけ、虫歯が沢山できそうなグミまでくれた。
子供の魅力はすごいなー、と感心しつつ、今はそれどころではない。
まったくとーちゃんには困ったものである。これはもう脱隊させてもらおう、
と考えながらアパートへ戻る道々、私は心中、かなりあせっていた。
デポジット分の現金が家にあるかどうか、自信がなかったからである。
お金の管理はとーちゃん担当で、銀行のカードもとーちゃんが保持。
日本へ同行帰国中なのだ。
一週間分の生活費を、多めに置いて行ってもらっているものの、はたして事足りるかどうか。
私自身もクレジットカードは持っているけれど、
事務所の窓口が開いている12時までに現金を用意するとなると、
キャッシングなんて行っていられないかもしれない。約束は守りたい。
冷や汗を流しながら、家で確認すると、ああ、なんとか足りた。
私がこの時、どれほど安堵してしまったのか、ということは、
このすぐ後に、身にしみてしまうことになる。

無事、お金を払って、息子と散歩がてらスーパーでお買物をし、
アパートの部屋の前でバッグをさぐると、
「げっ!」鍵がなかった。
安堵のあまり、気が緩み、部屋に置き忘れて出てしまったようだ。
これはどういうことかというと、つまりアパートの部屋はオートロックなので、
締め出されている状態である。
(またか!)
何が「また」なのかよく解らないけれど、心で叫びつつ、
もの凄くラッキーなことに、一階に管理人さんが居たことを思い出した。
管理人さんは、午前中の限られた時間しか居ないので、数分ずれていたら、
私は気絶していたかもしれない。そしてどうなったか、というと
無事に日記が書ける状態にあることがこんなに素晴らしいことなのか、
と胸に刻まずにはいられない、夕べなのだった。
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